弔いはやっぱりタイミング。青木のお坊ちゃん。


by specialmixjuice

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評価A+だった論文

パーソナルコンピュータを生み出した二つの考え方を端的に言うならば、「知識がある人たちだけのものであるコンピュータを一般に開放しようとする考え方」と「政府が開発したMULTICSのような『みんなで使えるもの』をもっと合理的で使えるものにしようとする考え方」である。この二つの考え方の流れは全く逆のものであるため、Apple社の製品のような全世界に普及するパソコンとUNIXのような上級者達を魅了する独特なOSのように全く異質な製品を生みだした。コンピュータを特権階級が有意義に使えるものであるとするか、誰もが自由に使えるものであるとするかの考え方は、1960年代のハッカー文化が生まれ、成熟していく過程で明確に分かれていったように思われる。
ハッカーの基本的な考え方が生まれたのは1950年代である。当時のマサチューセッツ工科大学の鉄道模型クラブの学生たちは、スリリングかつその方法や過程においての斬新さや機知に富んでいることに美意識を見出す知的なイタズラに没頭していた。次に鉄道模型クラブの学生たちが当時は米国の防総省によって開発されたコンピュータ「TX-0」に魅了され熱中していくと、斬新さや機知に重要性を置く姿勢はコンピュータへの取り組みにも表れていった。そんな彼らがより合理的な方法で問題を解決していったり、新たなことをやってのけたりするその行為は「ハック」と呼ばれるようになる。そのような「オタク」である彼らの考えをまとめたのがスティーブン・レビーであった。彼の著書である「HACKERS」の中ではハッカーたちの考え方がハッカー倫理として述べられている。この中に「ハッカーは成績、年齢、人種、地位のようなまやかしの基準ではなく、そのハッキングによって判断されなければいけない」という考え方がある。これは技術至上主義的な考え方である。これはこの頃のアメリカ東海岸におけるコンピュータの発展の中で特に顕著な考え方で、1960年代にヒッピー文化の成熟とともに出てくるアメリカ西海岸的な考えとは反するものである。東海岸的な考え方と西海岸的な考え方は共に「誰にもコントロールされず情報を共有することを望む」という点ではハッカー倫理に基づいているが、コンピュータを技術至上的なものとするか、みんなが使えるものであるとするかという点においては思想が異なっている。
では次にアメリカ西海岸のハッカーたちの考え方を少し説明していくことにしよう。当時の西海岸の人々はヒッピームーブメントの渦中にあり、ベトナム戦争の反対運動に代表されるように、政府に対する不満を非常に強く持っていた。彼らはコンピュータに対しても政府が巨大コンピュータを統制しているというイメージを持っており、人民へのコンピュータの解放の必要性を強く感じていた。ハッカーたちは反中央集権的な考え方を持っているとはいえ、東海岸の人々は官僚系エリートに近く、引きこもりのガリ勉体質に近かった。一方で西海岸の人々はエリート体質では無かったし、社会に進出している社交性のあるタイプの人々が多かった。
 要するに東海岸の人々は「政府のコンピュータ統制をやめ、私たち頭の良い専門的知識を持つ者たちににコンピュータを解放しろ」という主張であるが、西海岸の人々は「政府のコンピュータ統制をやめ、私たち一般人みんなにコンピュータを解放しろ」という主張である。
 西海岸的な考え方はApple社の製品開発思想に受け継がれていくこととなる。1970年代、Apple社は小さな会社であった。その中でジョブズは、それまでは一部のマニアが使うものであったコンピュータを誰でも使えるようにするための圧倒的なユーザーフレンドリー加減に落とし込んだ「AppleⅡ」を発表した。ここで重要なのはMacは一からオリジナルのパーソナルコンピュータを作り上げたというわけではないという点だ。MacOSやWindowsの元祖はXerox社のPalo Alto Reserch Centerが開発しており、Macはいわばオリジナルなものを模倣して作られたものであった。専門的なものを一般向けな商品として落とし込むことがジョブズの才能であったのだ。これは西海岸ハッカーたちのかつての「人民へのコンピュータの解放思想」と共通していた。
 一方で「UNIXオペレーションシステム」を生み出したのは東海岸的な考えであり、一般向けな商品というよりも「デキる奴にとって使い勝手がいい」商品を望む姿勢はまさに、エリートたちの技術至上的なものである。UNIXを生み出した背景には「MULTICS」というコンピュータがある。みんなで使えるものを作ろうという出発点から政府主導で開発したコンピュータであった。しかしみんなが使えるものというのは最低水準に合わせなくてならず、ハッカーにとっては耐えられないOSであった。AT&T Bell Laboratoryという研究所でも当時はMULTICSが使われていたが、バッチ処理指向だったために対話的に利用することができなかった。そこで研究所のKenを中心とするメンバーが対話的タイムシェアリングを作ろうとした。またKenたちはゲームをするためにもMULTICSを改変していった。少し古めのコンピュータで開発がスタートしやがてそこからUNIXが完成していくことになる。UNIXはシンプルにできているからこそなんでもできてしまうが、初心者にとっては非常に扱いにくいOSである。これは東海岸ハッカーたちのかつての技術至上主義に基づいているからこそ生まれたOSであるといえる。

 ハッカー倫理の中でも特に顕著な考え方は、世の中は効率良くできていればできているほど良いというもので、当然、効率よく動くための情報はなんでも教えてほしいというスタンスである。全ての情報は自由に利用できないと気が済まない、それがハッカーたちの強い思いである。Open SourceやCreative Commonsのような運動もそのようなハッカー倫理に則した動きである。そして結論から言えば、私はOpen Sourceに対しては問題を感じているが、一方でその問題を解決してくれる考えがCreative Commonsだと思っている。そもそもこの二つの違いとは何かを説明しながら、その理由についても言及していくことにしよう。
 Open Sourceはコンピュータのソース、商品の製法などを公開することが最大の性質である。そして、様々な人たちがそれを自由に改変することができる。一方でCreative Commonsはオリジナルを作った人や企業が、商標利用や改変が可能かどうかを意思表示するものであって、プログラムのデータや商品の製法が公開されているわけではない(もちろん、ソースが表示される場合もある)。マジックに例えるとすれば、Open Sorceはタネ明かしを行うのに対し、Creative Commonsは「タネは別に教えないけど、自由にアレンジして他で発表してもいいよ」と許可を出すようなものだと考えると分かりやすい。Open Sourceはどんなに知識や技術が無いものでもそのソースを手に入れられることから、真に誰にでもオープンや考え方であるのに対し、Creative Commonsは改変や商用が可能だとしてもソースの公開はされてない場合もあるため、それを改変・商用できる技術を要する者にのみオープンになっていることがある。
Orpen Sourceはより社会主義的な考え方である。Open Sorceの考えが広まり、社会的に正当化していけばいくほど、ソースをオープン化しない企業が「利益を独占しようとしている」という悪いイメージがついてしまうことがおこるかもしれない。そのために仕方なくソースを公開するような企業が現れると、競争社会的な向上心を持つ研究者や企業が減っていってしまうのではないだろうか。効率的なものをより多く生み出せることは良いことかもしれないが、経済の視点から見ると、むしろ社会を停滞させてしまうのではないだろうか。私がOpen Sourceにわずかに問題を感じるとすればここである。オリジナルを生み出した者に対する「特権」がある程度許されているからこそ、社会をよりよくしていく源でもある研究者や企業にも「やる気」が出てくるように思える。またソースを利用する方も、待っていれば誰かがソースを公開してくれるかもしれないと思いがちになってしまい、結果、技術・知識的な向上は停滞してしまうかもしれない。
その点でいえば、Creative Commonsのシステムはソースが完全に公開されるわけではないので、例え改変・商業利用が可能であっても、そのソースを自分たちで研究し暴いていかなくてはならない。そうなれば技術・知識的な向上も停滞することはないのではないだろうか。またその改変・商業をどれだけ許すかの程度を開発者側が決めることが可能であるため、より様々な考え方にも合っている。Open Sourceに比べ資本主義的な競争を保ったまま、2次利用による効率的なコンテンツの創出もしっかり可能にしてくれる点は魅力である。また、製法・ソースが存在しないもの(文書、芸術作品など)にも適用できるので、より多くのケースに利用でき、より可能性を感じる考え方であるように思う。
「みんなで情報を共有したい」が「ある程度の特権階級を作ることによって競争的な部分も停滞させたくはない」という、かつてのアメリカ西海岸と東海岸の考え方にも似た相反する思いをバランスよく実現する可能性を持っているものこそCreative Commonsの考え方なのではないかと私は思う。
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by specialmixjuice | 2013-05-02 01:47